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千葉地方裁判所 平成4年(行ウ)18号 判決

千葉県佐倉市宮ノ台四丁目二三番一号

原告

手島三雄

千葉県成田市加良部一丁目一五番地

被告

成田税務署長 本多三朗

右指定代理人

新堀敏彦

柳井康夫

今井廣明

住永剛

渡辺進

新居克秀

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が平成元年一〇月三一日付けでした原告の昭和六二年分所得税の更正処分のうち課税所得金額一八〇七万一〇〇〇円、納付すべき税額五四六万四九〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二事案の概要

本件は、原告が、別紙物件目録記載一の家屋(以下「本件家屋」という。)及びその敷地の用に供されている同目録記載二、三の各土地(以下「本件土地」といい、本件家屋と本件土地をあわせて「本件資産」という。)の譲渡は、租税特別措置法三五条一項(以下「本件特例」という。)所定の居住用財産の譲渡に該当すると主張し、被告が平成元年一〇月三一日付けでした原告の昭和六二年分所得税の更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税賦課決定処分(以下「本件過少申告加算税賦課決定処分」といい、本件更正処分と本件過少申告加算税賦課決定処分をあわせて「本件課税処分」という。)が違法であるとして、本件課税処分の取消しを求めた事案である。

一  争いのない事実

1  本件課税処分の経緯

原告の昭和六二年分所得税の確定申告、修正申告、本件課税処分及びこれに伴う重加算税賦課決定処分、異議申立、異議決定、審査請求及び裁決は、別表記載のとおり行われた。

2  本件課税処分の根拠

(一) 原告の昭和六二年分の課税総所得金額は、給与所得の金額である総所得金額七一六万五四〇九円から所得控除の金額の合計額である二一五万〇三九七円を控除した五〇一万五〇〇〇円(国税通則法一一八条一項により一〇〇〇円未満の端数を切り捨てた後のもの、以下課税所得金額は同様に端数を切り捨てて記載する。)であり、右課税総所得金額に対する税額は、七八万一二五〇円である。

(二) 原告は、昭和六二年に、柏原邦光及び柏原美子(以下「柏原両名」という。)に対し、原告所有の本件資産を代金七四四〇万円で売り渡した(以下「本件譲渡」という。)から、原告の同年分の譲渡収入金額は七四四〇万円である。

分離課税の短期譲渡所得金額の算定にあたり、右譲渡収入金額から控除すべき必要経費中、取得費(設備費及び改良費を含む。)は合計二八五八万七七〇四円であり、譲渡費用のうち、三島土地株式会社に支払われた仲介手数料は二二九万二〇〇〇円、収入印紙代は六万円、司法書士に支払われた手数料は一万二〇〇〇円である。

(三) 原告が所得税法二〇四条に基づいて納付した源泉徴収税額は、七九万六二〇〇円である。

二  争点

1  原告は、本件譲渡当時、真に居住の意思をもって本件家屋に居住しており、本件譲渡は本件特例所定の居住用財産の譲渡にあたるから、原告の昭和六二年分の分離課税の短期譲渡所得金額の算定にあたり、三〇〇〇万円の特別控除をすべきであると主張する(争点〈1〉)。

2  被告は、本件更正処分において譲渡収入金額から譲渡費用として控除された広告費三九万一八〇〇円(以下「本件広告費用」という。)は、昭和五六年ないし昭和五七年に支払われた費用であり、本件譲渡に直接要した費用ではないから、原告の昭和六二年分の分離課税の短期譲渡所得金額の算定にあたり、本件広告費用は控除されるべきでなかったと主張する(争点〈2〉)。

第三争点に対する判断

一  争点〈1〉(本件譲渡が居住用財産の譲渡にあたるか)

1  本件特例所定の居住用財産とは、真に居住の意思をもって客観的にもある程度の期間継続して生活の本拠としていた財産をいい、これにあたるかどうかは、家屋への入居目的、居住態様等の諸事情を総合的に判断して決すべきであり、譲渡所得に対する課税上本件特例の適用を受けることを主たる目的として居住する家屋など、一時的な利用を目的とする家屋及びその敷地を譲渡した場合は、右居住用財産の譲渡にあたらないと解するのが相当である。

2  これを本件についてみるに、まず、証拠(甲一の二三、二四の1、2、二五ないし二九、三〇の1、2、三一ないし三四、三五の1、2、三六及び三七、二の一ないし三、五の一ないし三、一六の一ないし四、乙二、五、一二ないし一五、一七、原告本人)によれば、原告が、昭和六一年九月頃から昭和六二年五月頃までの間、原告の妻咲子と共に本件家屋に居住した事実があることが認められる。

3  しかしながら、後掲各証拠によれば、以下の事実が認められる。

(一) 原告は、昭和五二年一一月三〇日、本件土地を植野佐市及び植野ヒデから譲り受け、昭和五四年九月頃、本件土地上に本件家屋を建築し、同月九月、本件家屋所在地を住所として大阪府茨木市に住民登録を行ったが、その頃、勤務先である日東電工株式会社より東京支店勤務を命じられたため、東京都大田区所在の社宅に居住した(甲一四、乙二、四の二、一八の一及び二、原告本人)。

その後、原告は、気管支喘息を患っていたことから、よりよい居住環境を求めて、昭和五四年九月頃、千葉県東葛飾郡浦安町弁天六丁目五四四番地(現在の千葉県浦安市弁天一丁目七番三号)所在の住宅(以下「浦安住宅」という。)を購入し、その頃、妻咲子と共に同住宅に入居し、次いで、昭和五八年一一月頃、神奈川県横浜市緑区美しが丘一丁目一七番地たまプラーザ団地一-五棟二〇五号室の居室(以下「美しが丘マンション」という。)を購入し、昭和五九年一月頃、原告及び妻咲子の住民票を同マンション所在地に移して同マンションに転居すると共に、その頃、浦安住宅を譲渡したが、昭和六〇年三月頃、昭和五九年分の所得税の確定申告を行った際、浦安住宅の譲渡所得金額につき、本件特例による三〇〇〇万円の控除をして税務申告を行ったところ、所轄税務署の担当者より、原告の住民票が大阪府茨木市から千葉県浦安市へ移されていないことの理由を尋ねられたため、公共料金の使用料の証明書と共に、「原告の母である手島ナミが関西のスモン病訴訟団の一員として裁判中であったので住民票を移さなかった」旨を記載した書面を所轄税務署に提出し、右控除を認められた(甲一〇、乙一、二、六、七、一六、一九、原告本人、弁論の全趣旨)。

なお、原告は、昭和五六年ないし昭和五七年頃、本件資産を売却しようとして数回広告を出したが、当時はその目的を果たさなかった(乙三の三ないし六、一七、原告本人)。

(二) 原告は、昭和六一年七月頃から本件資産の売却方の斡旋を三島土地株式会社に依頼していたが、同社に勤務していた伊東義人(原告の従兄弟)により、「本件資産を売りたいのなら、売却に都合がいいから早く茨木に来た方がよい」旨の勧誘を受け、本件資産の近隣住民には、かつて擁壁の設置等をめぐって揉め事があったため、強い嫌悪感を抱いていたものの、前記勤務先会社における原告の仕事の性質上、東京支店勤務でありながら大阪で仕事をすることも可能であったことから、同年九月頃から、前記2のとおり本件家屋に居住し、同年一〇月七日、原告及び妻咲子の住民票を本件家屋所在地に戻した(甲四、七の一及び二、八の一及び二、九、乙二、五、一七、原告本人)。

(三) 原告は、昭和六一年一一月一五日頃、右三島土地株式会社から本件資産の買主が決定した旨の知らせを受け、同年一二月六日、柏原両名との間で、代金を七四四〇万円とする本件資産の売買契約を締結し、同日、手付金として一〇〇〇万円を受領すると共に、残代金六四四〇万円の支払期日を昭和六二年五月三一日とすることを約し、その旨の売買契約書も作成したが、同月二九日、原告の納付すべき譲渡所得税額を安くするため、右約定に従って柏原両名から右残代金を受領する一方、柏原両名と合意のうえ、右契約書を破棄し、代金を六四四〇万円とする同年五月一日付けの売買契約書を作成した(甲一三、乙四の一及び三ないし七、一八の一及び二、二一、二二の一及び二、原告本人)。

他方、原告は昭和六一年一二月一〇日、美しが丘マンションを仲摩千造に売却し、昭和六二年二月二六日、兵庫県神戸市西区天王山一一番一所在の宅地を大建工業株式会社から代金二一一七万三〇〇〇円で購入し(平成四年八月一〇日に代金三七〇〇万円で売却)、更に昭和六二年三月頃、千葉県佐倉市宮の台四丁目二三番一号所在の宅地(肩書住所地、以下「宮の台宅地」という。)の購入を山万株式会社に申し込んだうえ、同月二二日、その手付金として三三六万円を支払い、同社と売買契約を締結し(売買契約書の作成日付は同年六月一日)、昭和六三年一月二〇日、残代金として三〇二八万四〇〇〇円を同社に支払った(乙一九、二〇の一、二四の一ないし三、二七ないし三〇)。

(四) 本件家屋(床面積三四・〇二平方メートル、二DK)に居住した前記2の期間中、原告は、前記勤務先会社の東京支店にも出勤したほか、持病である気管支喘息及び糖尿病の治療のため、神奈川県相模原市所在の国立相模原病院に月に二回程度通院しており、また、原告の妻咲子も、横浜市近辺に、服飾デザイン等の仕事のための拠点を必要としていたことから、原告ないし妻咲子は、右期間中、昭和六二年三月一〇日頃までは、前記仲摩千造に売却後は明渡しの猶予を受けて美しが丘マンション(専有部分床面積六五・九二平方メートル、三DK)において、同日頃以降は、原告が賃借した神奈川県横浜市緑区しらとり台三五番地一一東急北しらとり台ドエリング二〇二号室の居室(専有部分床面積四九・〇九平方メートル、三DK、以下「しらとり台マンション」という。)において、相当程度の日数にわたり生活した(甲一〇、一一の一、一五の八、乙六、七、一七、一九、三三、三五、三六、三九、原告本人)。

なお、原告は、しらとり台マンションを賃借することについて、「税務署に疑いを持たれるから、家財道具等は倉庫会社に保管する方がよい」旨を妻咲子に提案して、当初は反対したが、妻咲子の要望に従い、仲介人である有楽土地株式会社の担当者に対し、「原告が千葉方面に住居を構えるまでの短期間の賃貸借である」旨断ったうえで、同年二月一八日、一木信子からしらとり台マンションを賃借した(乙三三、三四、原告本人)。

そして、原告は、同年五月二九日頃、柏原両名に本件資産を明け渡し、しらとり台マンションに居住した後、同年六月二六日頃、千葉県佐倉市上座五八一番地二四所在の住宅を賃借して転居し、昭和六三年五月頃、宮の台宅地に家屋を新築して転居した(甲二の四の1、乙一、二、五、八、九の一ないし三、一〇、二〇の二、三五、三六、三九、原告本人)。

4  以上認定の事実関係を総合すれば、前記2の原告の本件家屋における居住は、入居当時買主が具体的に定まってはいなかったものの、原告において当初から本件資産の売却を予定して開始したものであり、間もなく売買契約が締結されたのであって、結局、本件資産の譲渡所得に対する課税上本件特例の適用を受けることを主たる目的とする居住であったと認めざるを得ない。

したがって、本件譲渡は、本件特例所定の居住用財産の譲渡にあたらない。

二  争点〈2〉(本件広告費用が譲渡費用にあたらないか)

所得税法三三条三項にいう資産の譲渡に要した費用にあたるといえるためには、当該費用が当該資産の譲渡のために直接必要とした費用であることを要すると解すべきところ、証拠(乙三の三ないし六、一七、原告本人)によれば、原告は、昭和五六年ないし昭和五七年頃、本件資産を売却するために広告を出し、その費用として本件広告費用を支払ったものの、右広告によっては右売却を果たせず、その後、本件譲渡に至るまで継続的に右売却を試みたものではなかったことが認められるから、本件広告費用を本件譲渡のために直接必要とした費用ということはできない。

したがって、本件広告費用は、同条項にいう譲渡費用にあたらない。

第四結論

一  以上によれば、原告の昭和六二年分の分離課税の短期譲渡所得金額は四三四四万八〇〇〇円であると認められ、これに対する税額は、租税特別措置法三二条一項及び同法施行令二一条三項の規定を適用して算出すると、二三一八万三四九〇円となる。

そうすると、原告の納付すべき税額は、前記第二の一2(一)の課税総所得金額に対する税額七八万一二五〇円に右分離課税の短期譲渡所得金額に対する税額二三一八万三四九〇円を加えた合計二三九六万四七四〇円から、前記第二の一2(三)の源泉徴収税額七九万六二〇〇円を控除して算出すると、二三一六万八五〇〇円(国税通則法一一九条一項により一〇〇円未満の端数を切り捨てた後のもの)であると認められる。

したがって、本件更正処分の分離課税の短期譲渡所得金額(四三〇五万六〇〇〇円)及び納付すべき税額(二二九三万一三〇〇円)(前記第二の一1)は、いずれも右認定額の範囲内であるから、本件更正処分は適法である。

二  また、原告は、昭和六二年分所得税の確定申告の際、課税標準及び納付すべき税額を過少に申告していたものであるから(前記第二の一の1)、本件更正処分により納付すべき税額のうち、重加算税の対象となる税額二〇五万一〇〇〇円(当事者間に争いがない。)を控除した後の税額(国税通則法一一八条三項により一万円未満の端数を切り捨てた後のもの)に同法六五条一項所定の一〇〇分の一〇の割合を乗じて計算した金額に、同条二項に基づき、原告の期限内申告税額を超える部分に相当する税額(同法一一八条三項により一万円未満の端数を切り捨てた後のもの)に一〇〇分の五の割合を乗じて計算した金額を加算して算出すると、過少申告加算税額は二二五万五五〇〇円と認められる。

したがって、本件過少申告加算税賦課決定処分の税額(前記第二の一1)は、右認定額と同一であるから、本件過少申告加算税賦課決定処分は適法である。

三  よって、原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 河本誠之 裁判官 安藤裕子 裁判官 有賀直樹)

物件目録

一 所在 大阪府茨木市南春日丘五丁目一九〇七番地四

家屋番号 一九〇七番四

種類 居宅

構造 木造スレート葺平家建

床面積 三四・〇二平方メートル

二 所在 大阪府茨木市南春日丘五丁目

地番 一九〇七番四

地目 宅地

地積 三〇四・四七平方メートル

三 所在 大阪府茨木市南春日丘五丁目

地番 一九〇七番四

地目 公衆用道路

地積 一八平方メートル

別表 本件課税処分の経緯

〈省略〉

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